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2005/05/31

失言

強硬な発言(人によっては正論となるのだろうが)が政府・与党の要人から躊躇無く出てくるようになった。
実際には以前からこのような発言はあったと思う。
さらに言えば、このような「本音」は敗戦直後にも、一部にはもう既に有ったはずだ。
既にそのときから「憲法改正」にしても「再軍備」にしてもそこでは「悲願」であったように思われる。
しかし、「敗戦」による「悲劇」と「占領」と言う現実の前にその「本音」を正面きって出すこともできず、受け入れられる事も無かったのだろうと思う。
その後も、日本にとっての戦勝国の筆頭である米国の価値観の浸透や国際社会(国連)への復帰により、日本の豊かさが実現され、目に見える概ね好ましい現実として認識されるにいたっては「本音」は出る幕さえ無かったとも思う。(一方で共産主義が根付かなかったのも同じような庶民の現実がその必要性を感じさせなかったのだとも思う。)


しかし、以前はそれは「失言」であり、その後に発言撤回なり修正などが行なわれることが普通であった事を考えると、その必要性が薄れた事は国民の受け止め方が変わってきたと言うことだろう。

これらの発言がその対象を刺激し、その対象との関係が悪化したとしても、そもそも、その悪化を必ずしも避けたいなどと思っていなければ大した問題ではない。
日本の「平和主義」が「無防備」で「危険」だと認識し、「国家」としての体に危機感を抱いていたならば、その「無防備さ」や「危険」な状態を「悪化」により目に見えるものにする事になんの躊躇があるのだろう。

むしろ、庶民の「不安」や「警戒感」は「願ったりかなったり」だろう。
発言の経緯を見るとどうにも確信犯的だから。
(ちょうど自己責任を自覚しない若者に「責任」による痛手を与えて自覚させてやろうと言う感覚に近い。深読みすれば、思考停止した国民が自ら気づく事には期待できないと言う危機感さえ根底にあるのかもしれない。)
「不安」の根拠も「警戒感」の根拠も、見えにくい物ならば目に見えるものにすれば、それは途端に「現実味」を帯び日本人にとっては無視しがたい物になる。

その状況が不十分なら、その状況を作ればいいのであり、一政治家の発言一つでそれができるのが今の状況であるように思える。
日中、日韓問題はこの意味でこれ以上の好材料は無い。
それにより国民は、自らその必要性を現実的なものとして感じるようになるのだから、かなり有効な手段だ。
最初は好ましくないと思われようと、既成事実を積み上げ、「それによりもたらされる」次の「現実」を目の前に突きつければ事足りる。
今の日本では既に起こってしまった「現実」の前では『何によりもたらされたか』はあまり問題にされないのだから。

経済的な成功体験も既に薄れ、不安が広がる中で「先進国」としてのプライドは以前と変わりが無い「今」はやはりこの「悲願」にとっては好機だろう。
「米国ですらも実現したくともできない理想」を織り込んだ憲法も、その後の米国の事情の変化により顔色をうかがう必要も無く、それを変える事がむしろ意に添う事柄になってきているのだからこれも「悲願」にとっては好機だ。
不安を自身喪失に置き換えれば日本人としての「アイデンティティー」や「誇り」もこの時期には好材料だ。

実際には高度成長期には高度成長期なりのそれを達成した日本人の誇りも自信もあったはず。
その成長の中で「平和主義」に対する誇りもあったはず。
それが行き詰まったからと言って、これらを無かった物にするのはあまりにも都合が良すぎる。
それを考えると、戦後の~が日本人の誇りを失わせたと言う論調は「悲願」達成の方便に思える。
その実はこれまで割を食っていた「悲願」を切望する立場にとって好機が訪れ、それらの「意思」がその好機を捕らえ、「現実」を武器に、(その意思にとって)良かれと思う望ましい方向に思考停止した国民を導こうということだろう。

これまでのところ、これはそこそこ成功しているのかもしれない。
今の「現実」に対するスタンスでは、「必然」と思わせる材料を提供する事さえできれば容易に方向を操作できそうだし、現に様々な既成事実に我々は無力さを露呈している。

ただ、「現実」に過大なコミットを与え、このように物事が進んでいくと、どちらを選び取るにせよ,本来注目すべき『「悲願」達成の暁の世界』と『そうでない世界』との違いを選び取る為の選択材料を目にする事も、その悲願達成の過程で生み出される別の「現実」が孕む「危険」を顧みる機会も与えられそうも無い。

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