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2004/09/17

恐怖心の囚われ人

先日、アメリカでは銃規制が延長されることなく失効した。
今回規制が失効した襲撃銃のカテゴリーに入っていたウージ(イスラエル製?)をアメリカの射撃場で撃たせてらった事がある。
私は銃の知識は殆どなかったのではっきり言ってシンプルな軽機関銃にしか見えなかった。
室内の射撃場だったので連続発射は許してくれなかったが・・・
あんな銃が規制されなくなるのかと思うとぞっとする。

同じ射撃場では他に38口径 45口径 44マグナムも一緒に撃たせて貰った。
私は素人なので45口径の方が44マグナムよりも口径が大きいのに44マグナムの方が衝撃が大きいのはなぜかと不思議だったのだが、口径はさほど違わなくても弾の長さも重さも全く違っていた。(他にも違いがあるのだろうが)

その程度の知識しかない私が初めて銃を手にしたときのなんともいえない不気味さは忘れる事ができない。
今、手にしている銃を人に向け引き金を引くだけで人一人の生命を奪ってしまうのだと考えただけで、自分の手が勝手にそのような事をしてしまうような気がして、銃そのものよりも自分の気持の不確かさに恐怖心を持ってしまったのだ。

それとは別にもう1つ印象に残ったのはその射撃場にいた人たちがあまりにも普通の人たちだったことだ。
ちょうど買い物帰りのようなおばさんが22口径の銃を真剣な顔をして撃ちつづけている。
そのとなりではそこいら辺の町を普通に歩いているようなジーンズをはいた若い女性が完璧な射撃スタイルで(本当に完璧かどうかはわからないが)38口径を撃っている。
そのとなりにはネクタイをしたビジネスマンが、そのとなりには日曜大工をしていてもおかしくないおじさんが...
といった感じで特別な雰囲気を持つ人ではなく全く普通の人なのだ。
話には聞いていたが銃が身近にあるということはこういう事なんだなとそのとき初めて認識した。

実際,その時泊まっていた安宿に住んでいた(そこに住み着いていた)住人が銃を自分の部屋に持っていてそれを見せてくれたが、普段から暗い人だったのでなおさら不気味だったのを覚えている。
当時のLAは今より治安が悪く、大体安宿というのは治安の悪いところにあり、入り口は格子扉になっており、夜は警察のヘリコプターがサーチライトを付けて飛び回り、パトカーがサイレンを鳴らして走り回るようなところだった。
そのような場所で銃が身近にあるというのは、日本人の私には到底理解不能だったのだが、そこではそれが現実なのであり、それを前提とした話のみが現実的なのだ。

アメリカの歴史の上で銃は欠かせなかった。
その歴史の中で銃が市民権を得て、絶対的な資本主義の中では当然それを作る企業も力を持つ。
銃がない社会のほうが住み易いと思う人が多くとも、政治に影響力を及ぼすのは力をもった企業であり、現実を無視できず恐怖心から身を守る必然を植え付けられた一般市民である。
そう簡単には銃のない安全な社会の実現を許してはくれない。
銃に市民権を与えた事実が銃は欠かせないという「現実」を築き挙げてしまっている。

日本ではまだ銃は規制されている。
しかし、どうだろう、アメリカを無条件に世界とみなす日本だけあって最近はもっぱら「凶悪な強盗が押し入ったら戦わないのか」「自分の身を自分で守らなくてはいけない」といった論議が盛んになっている。
その議論は防衛問題に限らず、国内の治安に関してもその傾向があるのではないか?
その上マスコミでもセンセーショナルに「凶悪犯罪増加」を書きたて盛んに不安を煽っている。

上記のような発想は銃やそれに準ずる武器の「必然性」を生み出す事に他ならない。
しかし、その「必然性」によりそれらに「市民権」を与える事で期待した「現実」をもたらす事はないだろう。
そこに生まれる「現実」とは「武器を持つ権利を有する犯罪者から、武器を持つ権利を有する自分を守る社会」であり、その社会ではどう間違ってもそれ以前の社会に比べ犠牲者は増加する。
さらに、それが「現実」となってしまえば「現実」に従順な日本のような社会では、たとえそれが間違いと気づこうとも既に出来上がった構造を元に戻す力などない。
恐らくそこに至ってもまだ「現実的には...」などと言いつづけ「不安」をごまかす為に「虚勢」を貼りつづける事になるのだろう。
この「見通し」に対して「根拠」を与えてくれるのが今回の銃規制失効から見える「アメリカの現状」だと言ったら、どこか不都合があるだろうか?

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不安と恐怖は、似て非なるものと思います。 多くの人は未来に対して、希望より、不安 [続きを読む]

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